DQN NAME
わたしの名前は中野パルミラ。
だがハーフではない。
クウォーターでもない。
私の知る限りで、祖父母はれっきとした日本人。父母も日本人。ならば当然わたしも日本人に分類される。
髪の毛だって黒いし、肌だって、日本人風に言うならそのままに肌色。西洋人風に言うならなぜその色になるのかは知らないがイエロー。
凹凸の少ない平坦な顔に、寸胴体系。
どこをどう見ても人種はモンゴロイドだ。
わたしの名前は中野パルミラ。
漢字で書くなら中野波流未羅。
波は流れるものである、そしてそれは未知なるものが連なっているようである。……とかなんとか。
何を言っている。
意味がわからない。
父よ、あなたの日本語は大丈夫か。地球外からの電波を受信しても変換できねば意味がない。
見事なまでの当て字。だがどうなのだろう。天使ちゃんよりはまだましなのか。光宙とか……ぷぷっ。
永遠の命題だ。とりあえずわたしにとって。
ちなみに、漢字の画数なんかはどうでもよかったらしい。なにそれと言われた。
わたしの名前は中野パルミラ。
カタカナでパルミラだ。一応は音から判別できると思うが、性別は女。
ん? であるだ言葉がうっとうしいって? でも頭の中じゃ言葉なんてこんなもんだ。自分の話しやすい言葉で話すだけ。
幻想持つなよ。持つと苦しいぞ。わたしがそうだった。
……話を戻そう。
父はあてにならない。母があてになるのかと言われればもっとあてにならない。祖父母は論外。
身内がまるで信用できない。信頼もできない。赤の他人の知恵を頼るほうがまだましだろう。
だから、わたしはインターネットを使って調べる。
パルミラで検索してみたら変な遺跡の名前だった。もしかしたら世界史の授業で聞いたことがあったかもしれない。
いや、たぶんそうだ。それできっと三十年前の授業でもあったに違いない。
ああ、意味なんてないな。語感だけで決めたんだな。高確率で寝てただろうけど、たまたま薄ぼんやりした記憶に残っていて、それが何かも思い出せないまま決めたんだろうな。
…………逆から読んでラミルパで調べたら、メキシカングッズの店だった。
わたしの名前は中野パルミラ。
誰に教えても反応はこうだ。
「バカ?」
屈辱だ。名前だけでわたしの全存在が否定されたような気分だ。
あーいやでもたぶん、実際ほとんどそうなのだろう。
しかたない。わたしだってきっと言う。
バカだろう。バカじゃないのか。バカ以外に考えられない。
うん、間違いなく言う。
だから名前そのものはとりあえず置いておくとして、なぜ変な名前をつけようと思ったのか、その理由を問い詰めてみた。
「えー? ギャップだよギャップ。完璧すぎってつまんねーじゃん? 顔よし頭よしスタイルよしになったとき困るだろ? だからわざと名前を面白いのにしたんだよ。いやでも逆にカッコよくね?」
ねーよ。
死ねばいいのに。本当に。どうせ未来なんてないだろう。
いったい、どこからつっこめばいいのやら。頭が腐っているから、明日以降のことなんて考えもしないんだろう。
デブ、あばた顔、三流以下の高卒。なにか取り柄が?
なにもない。
もういい。
わたしの親がバカだという事実は、実のところわたしが小学生の頃からわかっていた。
授業参観に来る母を見て、ああはなるまいと子供心に思っていたのだ。それが実行できたかと言われれば返答に困るけれど。
まあいい。
わたしが中学生の頃いじめられたのも、就職に失敗したのも、ほぼまちがいなくこの名前、つまり両親のせいだけど。
どーでもいい。
過去は過去だし。
今さらそんなこと言ってもむなしいだけだし。本当に。
明日が晴れようが曇りだろうが雨が降ろうが、暑かろうが寒かろうがどうでもいい。
きっとわたしに老後なんてない。十年後があるかすらあやしいもんだ。
ああ、明日もバイトだ…………。
わたしの名前は中野パルミラ。
かつてDQN、スイーツと呼ばれた親から生まれたフリーターである。
無論、続くわけがない。
この作品は以前、中野パルミラという名前でArcadia様に投稿させていただいた作品に加筆修正を行ったものです。
とくにオチとかなにもありませんが、これを読んで微妙な気分になっていただけたなら、私としてはしてやったり。